投資の世界で時折耳にする「アクティビスト」と「ホワイトペーパー」という用語。直訳するとアクティビストは活動家、ホワイトペーパーは白書を指しますが、投資の世界において2つの用語が具体的にどのような意味を持つのか、ピンとこない方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、2つの用語の意味をわかりやすく解説します。アクティビストによる実際の活動事例も紹介するので、投資の世界に興味を持っている方は、ぜひ最後までご覧ください。
本記事では、以下のような内容を解説します。
■ホワイトペーパーとは?
ホワイトペーパーは、さまざまな業界で使われています。元々はイギリス政府が、国民に政治や経済状況を知らせるための報告書を指していました。なぜ「ホワイト」と名がついたのかというと、報告書の表紙が白かったためといわれています。
最近では広い意味でつかわれるようになり、アクティビストの世界では、投資先の経営陣に対して提案や要求を伝える文書(経営改善提案書)をホワイトペーパーと呼んでいます。
ちなみにマーケティング業界でも、ホワイトペーパーは注目を集めるようになりました。マーケティングにおけるホワイトペーパーは、企業のノウハウや課題解決の提案、事例などをWeb上にまとめた資料を指し、主にリード獲得や育成のための施策に使われています。
このように同じ用語でも、業界によって若干内容が異なるので、違いを理解しておくとよいでしょう。
■アクティビストとは?
近年、行動が活発化し注目を集めているアクティビスト。投資の世界では、どのような活動をしている人のことを指すのでしょうか。具体的な活動内容や、活発化した背景も併せて解説します。
モノ言う株主
本来「活動家」を意味するアクティビストですが、株式の世界では「モノ言う株主」といわれています。なぜなら、ただ株式を保有するだけでなく、株主としての権利を積極的に活用して、企業に影響を及ぼそうと活動しているからです。
具体的な活動については後述しますが、アクティビストの活動によって株価にも少なからず影響が出ることから、多くの投資家の注目を集めています。
企業への働きかけ
さまざまな活動をしているアクティビストですが、主な内容には以下があります。
- 取締役の選任や解任
- 役員報酬引き下げ
- 増配要求
- 自社株買いの要求
- 声明の発表 など
経営陣に対して上記を提案する際、よく使われるのがホワイトペーパーです。ちなみにアクティビストは、大きく分けて3種類あります。
能動的アクティビスト
高い利益の実現を目指すために、経営陣に積極的に要求を突きつけるアクティビストを指す。少数の企業に集中して投資して保有率を高め、経営者との対話を図りながら株価重視の経営政策の実現を目指すのが特徴。
受動的アクティビスト
受動的な権利行使を行なう投資家を指し、年金基金や機関投資家に多い。長期投資を基本として、投資している企業の経営改善を図っていくのが特徴。
社会運動型アクティビスト
直接的な収益の獲得ではなく企業のESG対応の改善を図ることで、企業価値につなげていくことを目的として活動する投資家を指す。ESGは「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の最初の文字をとった言葉。
活発化した背景
海外での活動が多かったアクティビストですが、近年では日本でも存在が注目を集めるようになりました。そのきっかけの一つが、投資状況の変化といわれています。
存在が日本で知られるようになったのは、2000年に入ってからです。しかし、2008年のリーマンショック以降、多くのアクティビストファンドは撤退し、一度は存在感を失いました。ところがその後、日本版スチュワードシップ・コードや、コーポレートガバナンス・コードにより風向きが変化します。世界的な金融緩和もあり、再び活動が活発化するようになりました。
■有名なアクティビストファンドと事例一覧
アクティビストファンドは投資先の企業価値を高めるために、アクティビストとして積極的に活動する投資ファンドを指します。ここでは世界的に有名な5つのアクティビストファンドと、その事例を紹介します。
それぞれの特徴と主な投資先、どのような活動事例があるか順番に解説します。
サード・ポイント
サード・ポイントは、アメリカを代表するアクティビストファンドで、大手企業に対しても臆することなく、強気な要求を繰り返すのが特徴です。日本での主な投資先は、セブン&アイホールディングスやIHI、ソニーがあります。
特に日本で注目を集めたきっかけがソニーへの投資で、2度にわたって大量の株式を保有し、半導体事業の分離・独立やオリンパスなどの株式売却を求めました。しかし現在はほとんど、またはすべてのソニー株を売却したと見られています。
エリオット・マネジメント
1977年にポール・シンガー氏が設立したアメリカのファンドが、エリオット・マネジメントです。世界最大のアクティビストといわれており、その運用資産は2022年8月時点で500億円を超えるとされています。
主な投資先は。アメリカのTwitter社やAT&T、日本ではソフトバンクが有名です。2021年には香港の拠点を閉鎖し、人員をロンドンと東京に移すと発表しました。そのため今後は、さらに日本企業への投資が増えるのではないかと考えられています。
バリューアクト・キャピタル・マネジメント
バリューアクト・キャピタル・マネジメントは、2000年にジェフリー・アッベン氏によって設立されサンフランシスコに拠点を置くアクティビストファンドです。2018年から日本企業への投資を始めており、最初に投資したのはオリンパスでした。
当時、経営不振に陥っていたオリンパスでしたが、バリューアクトのパートナーデイビッド・ロバート・ヘイル氏と、コンサルタントを務めたジミー・シー・ビーズリー氏を取締役に迎えます。その後、企業改革プラン「Transform Olympus」を発表し、2020年12月には株価を3倍まで上昇させました。他の日本企業への投資先には、任天堂があります。
ダルトン・インベストメントツ
ダルトン・インベストメントツは1999年に創業したアクティビストファンドで、2008年のリーマンショックが起こる以前から、日本に積極的に投資してきました。
日本の主な投資先には新生銀行や、エイベックスなどがあります。新生銀行に対しては2019年、共同創業者のジェイミー・ローゼンワルド氏を報酬1円で社外取締役に選任するよう求めました。他にも継続的な自社株買いや、株式を活用した報酬制度を提案しています。
2021年には、「ニッポン・アクティブ・バリュー」という新しいファンドを設立。今後も日本へ積極的に投資していくことが考えられるでしょう。
キング・ストリート・キャピタル・マネージメント
1995年に設立されたアメリカの大手ファンドが、キング・ストリート・キャピタル・マネージメントです。180億ドルの運用資産を保有しており、ディストレス投資を得意としています。
ディストレス投資とは、財政難に陥っている企業の株式や社債を安く買い取り、経営再建が成功して価値が上昇したところで売却する投資手法です。日本では東芝の増資を引き受けたことで、注目が集まりました。
■用語を正しく理解しよう
ホワイトペーパーとアクティビスト、そしてアクティビストファンドの事例を解説しました。ホワイトペーパーは、業界によって意味が異なりますが、アクティビストの世界では、投資先の経営陣に対して提案や要求を伝える文書を指します。
アクティビストの活動は、一度は衰退したものの近年再び活発化しており、株価にも影響を与える可能性があります。本格的に投資しているならば、今後の動向に注目したいところです。
コメント