ビジネスや日常の交渉で役立つ心理テクニックの一つに、「ドアインザフェイス」があります。これは、最初にあえて大きな要求を提示し、それを断らせた後に小さな本命の要求を受け入れてもらいやすくする方法です。
返報性の原理を応用したこの手法は、適切に使うことで高い効果を発揮します。
ドアインザフェイスの仕組み、具体例、失敗しやすいポイント、フットインザドアとの違いについて分かりやすく解説します。
ドアインザフェイスとは?
ドアインザフェイス(Door in the Face)は、相手に対して最初に大きな要求をして断らせ、その後に本命の小さな要求をすることで、受け入れてもらいやすくする心理的なテクニックです。
この方法は、日常の交渉やビジネスの場で使われることが多く、上手く使えば相手の協力を得るための強力な手段となります。
ドアインザフェイスの仕組み
ドアインザフェイスの効果は、「返報性の原理」に基づいています。人間は、他人から譲歩を受けると、自分も譲歩しなければならないという心理的なプレッシャーを感じる傾向があります。ドアインザフェイスでは、最初にあえて断らせることで、相手に「申し訳ない」という罪悪感を抱かせ、その後の本命のお願いを受け入れてもらいやすくするのです。
例えば、営業で顧客に対して最初に高額な提案をします。この提案が断られた後に、少し価格を下げた本命の商品を提案すると、顧客は「最初の金額は高すぎるけど、この金額なら。という気持ちになり、購買を決断しやすくなります。
ドアインザフェイスの由来
ドアインザフェイスという名前は、英語の「Shut the door in the face(ドアを顔の前で閉める)」という慣用句に由来しています。この表現は、訪問販売などで営業マンがドアを閉められて断られる様子を表しており、心理学者がこの比喩を使って、この交渉テクニックを「ドアインザフェイス」と名付けました。
このテクニックは、最初の要求をあえて「断られること」を前提として行う点が特徴です。断られた後に、少し譲歩したように見せかけることで、相手が「次は受け入れよう」と感じるようになります。
ドアインザフェイスはどんな場面で使えるのか?
ドアインザフェイスは、ビジネスだけでなく日常生活でも使えるテクニックです。例えば、家族や友人に何かを頼むときに、大きなお願いを最初にして断らせ、その後に小さな本命のお願いをすることで、承諾してもらいやすくなります。相手に圧力をかけるわけではなく、あくまで自然な流れの中で相手の心理をうまく利用する方法として活用できるのです。
ドアインザフェイスの具体例
ドアインザフェイスは、ビジネスの交渉や日常生活で多くの場面で活用できるテクニックです。ここでは、実際にどのように使われているのか、具体的な例を紹介していきます。
ビジネスシーンでの例
ドアインザフェイスのビジネスシーンにおける具体例をご紹介します。
値引き交渉
営業の現場では、ドアインザフェイスは非常に効果的に使われます。
例えば、営業マンが商品を販売する際、最初に高額な提案を顧客に提示します。
顧客がその提案を断ると、営業マンは「では、もう少しお手頃な価格でどうでしょう?」と譲歩します。これによって顧客は、「最初に提案してもらった商品の金額は難しいけど、この金額なら商品を買う価値がある」と感じ、結果的に提案を受け入れる可能性が高まります。
プラン提案
複数のプランを提示する場面でも、ドアインザフェイスは効果的です。まず、高額かつ内容が充実したプラン(Aプラン)を提示し、顧客がそれを断った後、次に少し現実的な価格のプラン(Bプラン)を提案します。すると、顧客はBプランを「現実的な選択肢」として受け入れやすくなります。
納期交渉
ビジネスでの納期調整でもこのテクニックは有効です。たとえば、取引先が要求する納期が短すぎて対応できない場合、最初に「1週間遅れるかもしれません」と伝えて断られた後、「4日後であればなんとか間に合わせられます」と提案します。
この譲歩によって、相手は「こちらの都合を考えてくれた」と感じ、納期の延長を受け入れてくれる可能性が高くなります。
日常生活での例
ドアインザフェイスの日常生活における具体例をご紹介します。
家族との交渉
家族とのやりとりにもドアインザフェイスは活用できます。
例えば、子どもに部屋の掃除を頼むとき、最初に「部屋全体を掃除して」と頼みます。子どもがそれを断ると、「じゃあ、机の上だけでも片付けてくれる?」と小さなお願いをすると、子どもは「それならできる」と感じやすくなります。
友人に頼みごとをするとき
友人に手伝いをお願いするときも使えます。
たとえば、大きな手伝い(1日中の引っ越し作業など)をお願いして断られたら、「じゃあ、数時間だけ手伝ってくれない?」と小さなお願いをすることで、受け入れてもらいやすくなります。
ドアインザフェイスとフットインザドアの違い
心理学には、ドアインザフェイスと同じように交渉や説得の際に使われる有名なテクニックがいくつかあります。その中でも、特に混同されやすいのがフットインザドア(Foot in the Door)という手法です。
ここでは、ドアインザフェイスとフットインザドアの違いについて詳しく説明します。
フットインザドアとは?
フットインザドアは、ドアインザフェイスとは逆のアプローチを取ります。最初に小さな要求をして相手に承諾させ、その後に少しずつ要求のレベルを上げていく手法です。フットインザドアは、人間が持つ「一貫性の原理」を利用した方法です。一度何かを引き受けた人は、その行動と矛盾しないように後の大きな要求も受け入れやすくなります。
フットインザドアとドアインザフェイスとの違いは、要求の順番です。
要求の順番
この違いが最も大きなポイントです。
ドアインザフェイスは「断らせてから本命を提示」、フットインザドアは「小さな要求を受け入れさせてから本命を提示」するという順番になります。
心理的な背景
フットインザドアとドアインザフェイスは、心理的な背景が異なります。
実際の使い分け
例えば、営業の場面で考えると、次のようなシーンが考えられます。
どちらのテクニックを使うかは、状況や相手との関係性によって決まります。例えば、相手がこちらの提案に少しでも興味を持っていそうな場合は、フットインザドアが有効です。
逆に、最初から高額な提案を出して相手の意向を探りたいときは、ドアインザフェイスが適しています。
ビジネスの場面では、両方のテクニックを使い分けることが大切です。
また、日常生活でもこの違いを理解しておくと、交渉の際にどちらのアプローチが最も効果的かを判断しやすくなります。
ドアインザフェイスの注意点と失敗例
ドアインザフェイスは強力な交渉テクニックですが、使い方を間違えると逆効果になることもあります。
ドアインザフェイスを使う際に注意すべき失敗例について解説します。
適切な方法で使わないと、相手に不信感を与えてしまう恐れがあるため、注意が必要です。
注意点と失敗例①最初の要求が大きすぎる
例えば、ビジネスの交渉で最初に高すぎる値段を提示した場合、相手はその交渉自体に嫌悪感を抱き、本命の要求にたどり着く前に交渉が破綻してしまうことがあります。
注意点と失敗例②本命の要求の提示が遅い
例えば、最初の大きな要求を断られた後、数日後に本命の要求を出すと、相手は「もう一度考える必要がある」となり、断る理由を見つけやすくなってしまいます。
注意点と失敗例③同じ相手に何度も使う
例えば、営業マンが何度も同じ手法で交渉してくると、顧客は「また最初に高いものを見せて、その後で値段を下げるつもりだ」と察知してしまい、テクニックが通用しなくなるだけでなく、営業そのものに不信感を抱く可能性があります。
注意点と失敗例④相手の感情を無視した使い方
ドアインザフェイスを効果的に使う3つのポイント
ドアインザフェイスを効果的に使うためには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。
- 相手との信頼関係を築く
- 要求の段階を慎重に設定する
- 本命の要求をすぐに出す
単に大きな要求をしてから小さな要求を出せば良いというわけではなく、相手の心理状況やタイミングを見極めることが大切です。
効果的に使うポイント①相手との信頼関係を築く
ドアインザフェイスは、信頼関係がある程度築かれている相手に対して特に効果を発揮します。
最初の大きな要求を断らせた際に、相手がこちらを信頼していれば、その後の小さな要求に応じやすくなります。信頼関係がない状態でこのテクニックを使うと、相手に「強引だ」と感じさせ、逆効果になることがあります。
効果的に使うポイント②要求の段階を慎重に設定する
最初の要求は、大きすぎてはならず、相手が「ちょっと無理かな」と感じる程度の現実的なものにすることが大切です。
あまりにも非現実的な要求だと、相手は最初から交渉自体に疑問を持ち、後の小さな要求にも耳を傾けなくなる可能性があります。
効果的に使うポイント③本命の要求をすぐに出す
最初の大きな要求を断らせたら、すぐに本命の要求を提示することが重要です。
相手が断ったことへの罪悪感を持っている間に次の要求を出すことで、効果を最大化できます。タイミングが遅れると、相手の感情が冷めてしまい、効果が薄れてしまうので注意が必要です。
ドアインザフェイスのまとめ
ドアインザフェイスは、相手の心理にうまく働きかけることで、自分の要求を通しやすくする効果的なテクニックです。最初に大きな要求を提示して一度断らせ、次に本命の小さな要求を出すことで、相手に「断ったお詫びにこれなら応じてもいいかもしれない」と思わせることができます。
- 返報性の原理を活用
大きな要求を断った相手は、次の小さな要求に応じやすくなる。 - 日常生活でも使える
ビジネスの交渉だけでなく、家族や友人とのやりとりでも活用できる。 - 慎重な要求の設定が大切
最初の要求があまりに非現実的だと、相手に不信感を抱かせてしまい、逆効果になりやすい。
ドアインザフェイスは非常に有効ですが、相手の感情や状況を無視して使うと、相手に不信感や不快感を与えてしまうことがあります。使うタイミングや頻度にも注意が必要です。特に同じ相手に繰り返し使うと、相手に「この手法に誘導されている」と感じられる危険があるため、慎重に扱うべきです。
ドアインザフェイスは、効果的なコミュニケーションの手段として活用できる便利なテクニックです。しかし、どんなに優れた方法であっても、使い方を誤れば逆効果になります。相手を尊重し、信頼関係を大切にしながら、賢く活用しましょう。
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